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エリア:
- アフリカ > レソト > レソトその他都市
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テーマ:
- ハイキング・登山
- / 鉄道・乗り物
夜半過ぎから雨が降り出すと、たちまち雷音にものすごい突風が湧き上がる。泊まった小屋の窓から雨が吹き入ってくるので、マットを立てて窓をふさぐ。
朝には収まるだろうと思っていた嵐だが、日が明けても風こそ弱まったが雨がやむきざしは無し。 今日は朝8時には出発する予定だったが、雨足が弱まるのをじっと待つ。
朝10時、多少雨量が少なくなったのを見計らって出発の号令。ところが出発しようとした時、大問題が発生。馬が3頭、いなくなってしまったというのだ。
かろうじて我々が乗る馬は残っているが、荷物用の馬とソバト人のガイドが乗る馬が消えてしまったのだ。ガイドによると、いなくなった馬は嵐に恐れをなし、勝手に家に帰ったのだと言う。
降りしきる雨の中、我々はカッパを着込み、カメラ類を厳重に幾重にもビニールでくるみ、ソバト人のガイドは歩き、荷物は急きょモシビで借りたロバ一頭に背負わせて、マリャリャへの帰途につく。
そしてここから、今回の旅始まって以来の試練が訪れる。
我々は残された馬に乗り、歩きながらロバを引くガイドに続く。雨だけでもやんで欲しいという我々の願いも届かず、遠雷の中、雨足は強まっていく。冷たい雨が容赦なく体を打ち、体温を奪う。クツとクツ下はびしょ濡れ。つま先がかじかむ。
顔を打つ雨を避けて下を向いていたいのだが、背を伸ばして前を見て、かじかむ手で手綱を取って馬を操縦しなければならない。馬は放っておいても、前の馬(今はロバ)に付いて行くものだが、馬は自分の背丈のことしか考えておらず、道にせり出した木の枝の下でも平気ですれすれでくぐろうとする。手綱をさばいてコントロールしないと、枝葉に顔や上半身ごと突っ込んでしまい、ケガをしかねないのだ。
この状態で5〜6時間の道のりだ。
こうなってくると昨日の旅の充実感とは打って変わって、これは旅という修行だ。
試練はまだまだ続く。
昨夜から降り続いた雨で、昨日は斜面を流れる小川だった所が、今日は小さな滝のようになっている。慎重に滝のような小川を越える。
昨日、モシビへ行く時は大きな川を4つ越えたが、かなり進んでも川は現れない。どうやら川越えは避けて、昨日とは違う道を進んでいるようだ。それはそうだ。ガイドには馬はない。人の足で川を越えるのは不可能だ。ただ谷に下りず、 山肌を回り込んで行くのは谷川を横切って行くよりもどう考えても遠回りだ。いったいこの状態で、あと何時間耐えれば良いのだろうか。
救いはガイドのソバト人の明るい事。この状況で常に笑っている。強靭な体力と忍耐力の持ち主なのか。それとも笑って耐えようとしているのか。いずれにせよ、彼の表情と止まる事無く進む馬とロバに
「頑張っていれば、いずれマリャリャに着く。頑張ろう。」
と気力を与えられる。
「マリャリャの宿に着いたら、温かいシャワーを浴びる事ができる。それまでの我慢だ。」
自分に言い聞かせて、顔を上げ、かじかんだびしょ濡れの足をつっぱり、手綱を取る。
4時間ほど過ぎた頃、ついに我々の前に昨夜からの雨で水かさを増し、激しい泥流の大きな川が行く手を阻んだ。この川だけは避ける事は出来ず、越えない訳には行かないらしい。
昨日はせせらぎが耳に心地いい清流だったのに、今はうなりを上げて泥を流している。
まずは荷物を運ばせていたロバの背から荷物を取り、ガイドが尻をたたき、泥流を渡って、川の向こう岸の道まで行かせようとする。が、ロバは全く動かない。たたいても引っ張っても川岸で足を踏ん張り、一歩たりとも川に足を入れようとしない。
怖いのだろう。力いっぱいロバをたたき、押し、引っ張るガイド。引きずられて、前足が川の水に付いたとたん、ロバは座り込み、ついに目まで閉じてしまった。完全拒否だ。
ここで最終手段。ロープをロバの体にに頑丈にくくり付け、2頭の馬でそのロープを無理矢理引っ張る。さすがに2馬力の威力にはかなわない。ひたすら引きずられて、ようやくロバ一頭対岸に到達。ロバから降ろしておいた荷物は分散し、ガイドが抱きかかえて馬で対岸へ運ぶ。
そして、さあ、我々の番だ。
ロバを引いた2頭の馬、今度は一頭にガイドが乗り、そのガイドがもう1頭を引き、川を渡って、こちらに戻って来る。戻ってきた一頭にゆっくりと乗った自分は、寒さを忘れ、しっかりと手綱を握りしめる。
「ハイッ」と一声。自分を乗せた馬の前足が泥流に付く。ザブンザブンと馬は慎重に一歩ずつ、川底を踏みしめながら進む。
川の流れは思ったよりずっと激しい。馬は激流に少しずつ押されて、真っ直ぐにではなく、斜めに対岸を目指して進んで行く。川の真ん中に到達すると、激しい泥流の流れのスピードに目がくらむ。世界中が流れているかのようだ。
水カサが増しているので、馬の腹が水に付いている。自分の足の先にも泥流がぶち当たり、馬ごと流そうとする。ここでたじろいだらだめだ。一気に渡ってしまわないと危ない。顔を上げ、手綱を引く。少しでも流れの抵抗が弱まるように足を上げ、一気に対岸へ。
次はJunkoの番だ。
「Junちゃん、足を上げて!」
対岸から自分が叫ぶ。
足を上げると踏ん張れない分、落馬の危険もある。頑張ってくれ!!
泥流との格闘2時間余り。ようやく全員、全頭対岸に到着。ここから谷を登り切って、しばらく行った所がマリャリャ村だ。
急な登りに差し掛かりロバの歩速が落ち、進行が物凄く遅くなる。 ロバを引いて歩くガイドが力ない声で叫ぶ。
「先に行け。」
我々は既に奥歯もかみ合わないほどで凍えている。それを見てのガイドの指示だ。そうは言っても、今まではガイドに付いて行っただけなのに、我々だけで馬を操って帰れるのか。
でもやるしかない。手綱を強く引いて、足場の悪い急な谷を登る。登り切ると尾根だ。途中途中の村で、「マリャリャ?」と尋ね方向を確認しながら馬を進める。もっとも馬は帰巣本能があって、大抵放っておいても家に帰るらしいが、道を確認して進まないと我々自身が不安で仕方ないのだ。
ガイドと荷物を載せたロバは遥か後方、その姿はもう見えない。
夕方5時前、マリャリャのロッジに到着。すぐにびしょびしょのクツをぬぎ、温かいシャワーを浴びて生き返る。歩いていたガイド達も、しばらくして無事ロバを従えて戻ってきた。「どうもありがとう。ごくろうさま!」
夜、村の集会場のような建物の中で、ソバトの伝統的なバンド演奏が披露されていたので、呼ばれてもないのに勝手に覗き込む。 ギターや一本弦のハープのような楽器は見るからに手作り。ドラムはドラム缶に皮を張っている、「これぞドラム」。

そのリズミカルで陽気なソバトの歌を聴きながら、
「クツは当分乾きそうにない。明日からどうしようか。」
と頭をよぎる。
皮肉にも寝る頃には、星が出ていた。
【食事】
朝:パン
昼:なし
夜:自炊パスタ
【トラベルメモ】
1$ ≒ 6R(南ア・ランド、レソトでも通用)
【宿】(マリャリャ村レソト)マリャリャロッジ W 45R/1人
朝には収まるだろうと思っていた嵐だが、日が明けても風こそ弱まったが雨がやむきざしは無し。 今日は朝8時には出発する予定だったが、雨足が弱まるのをじっと待つ。
朝10時、多少雨量が少なくなったのを見計らって出発の号令。ところが出発しようとした時、大問題が発生。馬が3頭、いなくなってしまったというのだ。
かろうじて我々が乗る馬は残っているが、荷物用の馬とソバト人のガイドが乗る馬が消えてしまったのだ。ガイドによると、いなくなった馬は嵐に恐れをなし、勝手に家に帰ったのだと言う。
降りしきる雨の中、我々はカッパを着込み、カメラ類を厳重に幾重にもビニールでくるみ、ソバト人のガイドは歩き、荷物は急きょモシビで借りたロバ一頭に背負わせて、マリャリャへの帰途につく。
そしてここから、今回の旅始まって以来の試練が訪れる。
我々は残された馬に乗り、歩きながらロバを引くガイドに続く。雨だけでもやんで欲しいという我々の願いも届かず、遠雷の中、雨足は強まっていく。冷たい雨が容赦なく体を打ち、体温を奪う。クツとクツ下はびしょ濡れ。つま先がかじかむ。
顔を打つ雨を避けて下を向いていたいのだが、背を伸ばして前を見て、かじかむ手で手綱を取って馬を操縦しなければならない。馬は放っておいても、前の馬(今はロバ)に付いて行くものだが、馬は自分の背丈のことしか考えておらず、道にせり出した木の枝の下でも平気ですれすれでくぐろうとする。手綱をさばいてコントロールしないと、枝葉に顔や上半身ごと突っ込んでしまい、ケガをしかねないのだ。
この状態で5〜6時間の道のりだ。
こうなってくると昨日の旅の充実感とは打って変わって、これは旅という修行だ。
試練はまだまだ続く。
昨夜から降り続いた雨で、昨日は斜面を流れる小川だった所が、今日は小さな滝のようになっている。慎重に滝のような小川を越える。
昨日、モシビへ行く時は大きな川を4つ越えたが、かなり進んでも川は現れない。どうやら川越えは避けて、昨日とは違う道を進んでいるようだ。それはそうだ。ガイドには馬はない。人の足で川を越えるのは不可能だ。ただ谷に下りず、 山肌を回り込んで行くのは谷川を横切って行くよりもどう考えても遠回りだ。いったいこの状態で、あと何時間耐えれば良いのだろうか。
救いはガイドのソバト人の明るい事。この状況で常に笑っている。強靭な体力と忍耐力の持ち主なのか。それとも笑って耐えようとしているのか。いずれにせよ、彼の表情と止まる事無く進む馬とロバに
「頑張っていれば、いずれマリャリャに着く。頑張ろう。」
と気力を与えられる。
「マリャリャの宿に着いたら、温かいシャワーを浴びる事ができる。それまでの我慢だ。」
自分に言い聞かせて、顔を上げ、かじかんだびしょ濡れの足をつっぱり、手綱を取る。
4時間ほど過ぎた頃、ついに我々の前に昨夜からの雨で水かさを増し、激しい泥流の大きな川が行く手を阻んだ。この川だけは避ける事は出来ず、越えない訳には行かないらしい。
昨日はせせらぎが耳に心地いい清流だったのに、今はうなりを上げて泥を流している。
まずは荷物を運ばせていたロバの背から荷物を取り、ガイドが尻をたたき、泥流を渡って、川の向こう岸の道まで行かせようとする。が、ロバは全く動かない。たたいても引っ張っても川岸で足を踏ん張り、一歩たりとも川に足を入れようとしない。
怖いのだろう。力いっぱいロバをたたき、押し、引っ張るガイド。引きずられて、前足が川の水に付いたとたん、ロバは座り込み、ついに目まで閉じてしまった。完全拒否だ。
ここで最終手段。ロープをロバの体にに頑丈にくくり付け、2頭の馬でそのロープを無理矢理引っ張る。さすがに2馬力の威力にはかなわない。ひたすら引きずられて、ようやくロバ一頭対岸に到達。ロバから降ろしておいた荷物は分散し、ガイドが抱きかかえて馬で対岸へ運ぶ。
そして、さあ、我々の番だ。
ロバを引いた2頭の馬、今度は一頭にガイドが乗り、そのガイドがもう1頭を引き、川を渡って、こちらに戻って来る。戻ってきた一頭にゆっくりと乗った自分は、寒さを忘れ、しっかりと手綱を握りしめる。
「ハイッ」と一声。自分を乗せた馬の前足が泥流に付く。ザブンザブンと馬は慎重に一歩ずつ、川底を踏みしめながら進む。
川の流れは思ったよりずっと激しい。馬は激流に少しずつ押されて、真っ直ぐにではなく、斜めに対岸を目指して進んで行く。川の真ん中に到達すると、激しい泥流の流れのスピードに目がくらむ。世界中が流れているかのようだ。
水カサが増しているので、馬の腹が水に付いている。自分の足の先にも泥流がぶち当たり、馬ごと流そうとする。ここでたじろいだらだめだ。一気に渡ってしまわないと危ない。顔を上げ、手綱を引く。少しでも流れの抵抗が弱まるように足を上げ、一気に対岸へ。
次はJunkoの番だ。
「Junちゃん、足を上げて!」
対岸から自分が叫ぶ。
足を上げると踏ん張れない分、落馬の危険もある。頑張ってくれ!!
泥流との格闘2時間余り。ようやく全員、全頭対岸に到着。ここから谷を登り切って、しばらく行った所がマリャリャ村だ。
急な登りに差し掛かりロバの歩速が落ち、進行が物凄く遅くなる。 ロバを引いて歩くガイドが力ない声で叫ぶ。
「先に行け。」
我々は既に奥歯もかみ合わないほどで凍えている。それを見てのガイドの指示だ。そうは言っても、今まではガイドに付いて行っただけなのに、我々だけで馬を操って帰れるのか。
でもやるしかない。手綱を強く引いて、足場の悪い急な谷を登る。登り切ると尾根だ。途中途中の村で、「マリャリャ?」と尋ね方向を確認しながら馬を進める。もっとも馬は帰巣本能があって、大抵放っておいても家に帰るらしいが、道を確認して進まないと我々自身が不安で仕方ないのだ。
ガイドと荷物を載せたロバは遥か後方、その姿はもう見えない。
夕方5時前、マリャリャのロッジに到着。すぐにびしょびしょのクツをぬぎ、温かいシャワーを浴びて生き返る。歩いていたガイド達も、しばらくして無事ロバを従えて戻ってきた。「どうもありがとう。ごくろうさま!」
夜、村の集会場のような建物の中で、ソバトの伝統的なバンド演奏が披露されていたので、呼ばれてもないのに勝手に覗き込む。 ギターや一本弦のハープのような楽器は見るからに手作り。ドラムはドラム缶に皮を張っている、「これぞドラム」。

そのリズミカルで陽気なソバトの歌を聴きながら、
「クツは当分乾きそうにない。明日からどうしようか。」
と頭をよぎる。
皮肉にも寝る頃には、星が出ていた。
【食事】
朝:パン
昼:なし
夜:自炊パスタ
【トラベルメモ】
1$ ≒ 6R(南ア・ランド、レソトでも通用)
【宿】(マリャリャ村レソト)マリャリャロッジ W 45R/1人


